実際のお客様症例(腰痛、仙腸関節炎)
先日、女性のお客様が腰の痛みでご来院されました。
日頃、デスクワークで座っている時間が長く、立ち上がる時などに痛みが強く出る様子でした。
問診の後、施術を行っていると、骨や関節が原因で痛みが出ている可能性が出てきたので、病院に受診して頂いた所、仙腸関節の炎症と診断されました。
現在は腰部や殿部の施術と日常の姿勢や身体の動かし方などの指導を行い経過観察中です。
今回の様に、腰が痛いと思っていても違うところに原因がある場合、痛みが長引く事もありますので、いつもと違う痛みや普段より痛みが長引く事があれば、放っておかずに相談してみてください。
仙腸関節炎とは
仙腸関節炎は、仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節に炎症が生じる状態です。
仙腸関節は、骨盤の安定性を保ち、歩行や姿勢保持に重要な役割を果たしています。しかし、この関節が炎症を起こすと、腰や臀部に痛みを引き起こし、動きが制限されることがあります。
仙腸関節炎は、急性と慢性の形で現れることがあり、症状は軽度から重度までさまざまです。
原因
1. 外傷
- 事故や転倒: 仙腸関節に強い衝撃が加わると、関節や周囲の靭帯が損傷し、炎症が発生することがある。
- スポーツ傷害: 特に接触の多いスポーツやジャンプ、ランニングなど、激しい身体活動が仙腸関節に過度のストレスを与え、炎症を引き起こすことも。
2. 妊娠と出産
- ホルモンの変化: 妊娠中に分泌されるリラキシンというホルモンは、骨盤の靭帯を緩める働きがあります。これにより仙腸関節が緩み、不安定になりやすくなる。
- 出産: 出産時には骨盤が広がり、仙腸関節に大きな負担がかかります。この負担が原因で関節炎が発生することがあります。
3. 関節リウマチや自己免疫疾患
- 関節リウマチ: 関節リウマチは、身体の免疫システムが自分自身の関節を攻撃する自己免疫疾患で、これが仙腸関節に影響を与え、炎症と痛みを引き起こすことがあります。
- 強直性脊椎炎: この疾患は、脊椎と仙腸関節の硬化や炎症を引き起こし、慢性的な仙腸関節炎につながることがあります。
4. 繰り返しのストレス
- 長時間の立ち仕事: 長時間にわたって立ち続けることや、片足に体重をかけるような姿勢をとることで、仙腸関節に過度なストレスがかかり、炎症を引き起こすことがあります。
- 不適切な姿勢: 不良姿勢や片側の筋肉の過度な使用も、仙腸関節への負担を増加させ、炎症を引き起こす可能性があります。
5. 変性疾患
- 関節の加齢による変性: 加齢に伴い、関節や靭帯が劣化することで仙腸関節が不安定になり、炎症を引き起こすことがあります。
その他
- 肥満: 体重が増えると、仙腸関節にかかる負荷が増え、炎症のリスクが高まります。
- 遺伝: 家族歴に関節炎や自己免疫疾患がある場合、仙腸関節炎のリスクが増加することがあります。
症状
仙腸関節炎の症状はひとりひとり異なりますが、典型的な症状として以下のような症状があります。
1. 腰痛
- 仙腸関節炎では腰の下部に痛みを感じることが多いです。特に骨盤の片側や両側の腰部に痛みが集中する傾向があります。
- 痛みは鈍い痛みから鋭い痛みまでさまざまで、身体を動かすと悪化することもあります。
2. 臀部の痛み
- お尻の片側または両側に痛みを感じることが多いです。特に、痛みが仙骨のすぐ上、または腸骨の周辺に集中することが多いです。
- この痛みは、長時間座ったり、片足に体重をかけたりしたときに悪化することがあります。
3. 太ももや脚への放散痛
- 痛みが太ももや脚の後ろ側に広がることがあります。この放散痛は坐骨神経痛と似ていることがあり、誤診されることもあります。
- 放散痛は、片側または両側の脚に影響を与えることがあります。
4. 朝のこわばり
- 朝起きたときに腰や骨盤周辺がこわばり、動かしにくいと感じることがあります。このこわばりは、しばらく体を動かすと改善することが多いです。
5. 片足に体重をかけた際の痛み
- 片足に体重をかける動作(例:階段を登る、片足立ちをする)で痛みが悪化することがあります。
- この痛みは、仙腸関節に不均等な負担がかかることで生じます。
6. 歩行や体の動きに伴う痛み
- 歩く、立つ、座る、寝返りを打つなどの体の動きに伴って痛みが現れることがあります。特に歩行時に骨盤が動くため、仙腸関節に負担がかかりやすく、痛みを引き起こします。
7. 骨盤の不安定感
- 仙腸関節が不安定になると、骨盤や腰の周りに不安定感や「ズレ」を感じることがあります。この感覚は、特に体を急に動かしたときや重いものを持ち上げたときに強く感じられることがあります。
これらの症状は、仙腸関節炎の程度や原因により異なります。症状が重くなると、日常生活に支障をきたすこともあるため、早期の診断と治療が重要です。
治療法
- 保存療法
a. 休息と生活習慣の改善
•安静:炎症を和らげるために症状が強い場合は安静を保ち、仙腸関節への負荷を減らす。
•姿勢の改善:正しい姿勢を保つことで、仙腸関節への過度な負担を避けることができます。
例えば、長時間座る場合は、適切な椅子を使用し、腰部をしっかりとサポートすることが重要です。
•体重管理:肥満は仙腸関節に負担をかけるため、体重を適切に管理することが重要です。
b. アイシングと温熱療法
•アイシング:炎症を抑えるために、痛みのある部位に冷却パックを当てることが効果的です。1回あたり15~20分程度、1日に数回行うと良いでしょう。
•温熱療法:痛みが慢性化している場合や、こわばりがある場合は温熱療法が効果的です。温湿布や温かいシャワー、入浴などが血流を改善し、筋肉の緊張を和らげます。
- 物理療法(リハビリテーション)
a. ストレッチ
•骨盤や腰周りのストレッチ:骨盤の柔軟性を高めることで、仙腸関節へのストレスを軽減できます。たとえば、腰部や臀部、ハムストリングのストレッチが推奨されます。
•具体的なストレッチ方法:例えば、膝を胸に引き寄せるストレッチや、骨盤を左右に動かすエクササイズなどが挙げられます。
b. 筋力強化エクササイズ
•骨盤安定筋の強化:骨盤周りの筋肉(腹斜筋、殿筋、ハムストリング)を強化することで、仙腸関節を安定させることができます。
•コアトレーニング:体幹の筋力を強化することで、仙腸関節への負荷を減らすことができます。具体的には、プランクやブリッジといったエクササイズが効果的です。
c. 姿勢矯正
•理学療法士による指導:専門の理学療法士が、個々の状態に合わせた姿勢矯正や歩行指導を行い、仙腸関節への負担を減らします。
- 手技療法
a. カイロプラクティック
•関節の矯正:カイロプラクティック療法では、仙腸関節の歪みやズレを手技で矯正し、痛みや炎症を軽減することを目指します。適切な施術によって、関節の正常な動きを回復させることができます。
b. 鍼灸治療
•痛みと炎症の緩和:鍼灸は、特定のツボに鍼を刺すことで、痛みや炎症を和らげる効果があります。仙腸関節炎の場合、仙骨や骨盤周辺のツボに鍼を刺すことが効果的です。
- 薬物療法
a. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
•痛みと炎症の軽減:NSAIDs(例: イブプロフェンやナプロキセン)は、炎症を抑え、痛みを軽減するために使用されます。これらの薬は、短期間での使用が一般的です。
b. 筋弛緩薬
•筋肉の緊張を和らげる:筋肉の緊張やけいれんが原因で痛みが生じている場合、筋弛緩薬が処方されることがあります。
c. 局所麻酔薬やステロイド注射
•仙腸関節注射:仙腸関節に直接ステロイド注射を行い、炎症を抑える治療法です。これは、他の治療法で効果が得られない場合に適応されることがあります。注射後は、痛みの緩和が期待できますが、効果は一時的であることが多いです。
- 手術療法
a. 仙腸関節固定術
•手術の適応:保存療法や薬物療法でも症状が改善しない場合、手術が検討されることがあります。仙腸関節固定術は、仙腸関節を固定して痛みを軽減する手術です。この手術は、関節の動きを制限し、痛みの原因となる摩擦を減少させます。
b. その他の手術
•関節の再建:仙腸関節の形状に問題がある場合、関節の再建手術が行われることがあります。この手術は、特に骨の異常が原因で痛みが生じている場合に行われます。
鍼灸治療
鍼灸治療は、仙腸関節炎の症状緩和に有効な治療法として広く利用されています。
鍼灸治療は、身体の自然治癒力を高め、痛みや炎症を軽減するために、経絡(エネルギーの通り道)や特定のツボに鍼を刺したり、温熱刺激を与えたりする伝統的な中国医学に基づいた治療法です。
1. 痛みの緩和
a. 内因性オピオイドの放出
- 鍼治療は、体内で自然に生成される鎮痛物質である内因性オピオイド(エンドルフィンやエンケファリンなど)の放出を促進します。これらの物質は、痛みを軽減し、気分を改善する効果があります。
- 仙腸関節周辺のツボに鍼を刺すことで、局所的な痛みの緩和と共に、全身的なリラクゼーション効果も得られます。
b. 神経伝達の抑制
- 鍼刺激は、痛みの信号が脳に伝わるのを抑制する効果があります。具体的には、鍼が皮膚や筋肉に刺さることで神経終末が刺激され、痛みを伝達する経路を遮断する作用があります。
- これにより、仙腸関節炎に伴う慢性的な痛みや、急性の痛みが軽減されることがあります。
2. 炎症の軽減
a. 血流の改善
- 鍼灸は、局所の血流を改善し、炎症を引き起こす物質の排出を促進します。鍼が刺さることで、血管が拡張し、酸素や栄養分がより多くの量で供給されるようになります。これにより、組織の修復が促進され、炎症が軽減されます。
- 特に温熱刺激を加える灸療法(例えば、もぐさを燃やしてツボを温める治療)は、温熱効果により血流を増やし、炎症を抑える効果が高まります。
b. 免疫系の調整
- 鍼灸は、体の免疫機能を調整する働きがあります。免疫系のバランスが整うことで、過剰な炎症反応が抑制され、仙腸関節の炎症が軽減されます。
3. 筋肉の緊張とこわばりの緩和
a. 筋弛緩効果
- 鍼治療は、筋肉の緊張を緩和する効果があります。仙腸関節炎では、関節周囲の筋肉が硬くなり、こわばりや痛みを感じることが多いです。鍼を刺すことで、筋肉がリラックスし、緊張がほぐれることで、痛みやこわばりが緩和されます。
- 特に、臀部や腰部の筋肉に対して鍼を行うと、骨盤全体のバランスが改善されるため、仙腸関節への負担が軽減されます。
b. トリガーポイントへのアプローチ
- 仙腸関節炎に関連する筋肉のトリガーポイント(痛みを引き起こす部位)に対して直接鍼を刺すことで、局所的な筋肉の緩和を促進します。これにより、痛みの発生源となる筋肉の緊張を効果的に解消できます。
4. 精神的リラクゼーションとストレス軽減
a. 自律神経の調整
- 鍼灸は、自律神経系を調整する効果があり、特に副交感神経を優位にすることでリラクゼーション効果を促します。これにより、ストレスが軽減され、痛みの感受性が低下します。
- 精神的なリラクゼーションは、慢性の痛みを軽減するために非常に重要です。鍼灸治療中にリラックスした状態が得られると、痛みが軽減しやすくなります。
b. ストレスホルモンの抑制
- 鍼治療は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制する効果があります。ストレスが軽減されることで、体内の炎症反応が抑えられ、仙腸関節の症状が改善されることがあります。
5. 即効性と長期的な効果の両立
a. 即効性のある痛み緩和
- 多くの患者は、鍼灸治療の施術中または直後に痛みの緩和を感じることがあります。この即効性は、急性の痛みを迅速に軽減するために特に有用です。
b. 長期的な症状管理
- 定期的な鍼灸治療を続けることで、痛みの再発を防ぎ、仙腸関節の健康を長期的に維持する効果があります。鍼灸は、炎症や痛みを抑えるだけでなく、全身のバランスを整えるため、根本的な改善が期待できます。
まとめ
鍼灸治療は、仙腸関節炎の症状を緩和するために有効な治療法です。他の治療法と併用することで、相乗効果を発揮し、より良い治療効果が期待できます。
この記事へのコメントはありません。